みなし相続財産とは?生命保険金や退職金は相続税の課税対象になる?

みなし相続とは

相続に関する税制では、被相続人(=亡くなった人)が残した財産のほか、生命保険金や死亡退職金など存命中には所有していなかった特定の財産も課税対象として扱います。一方、日常礼拝の対象の墓地・仏壇、生命保険金の非課税枠、公益事業や寄付に関する財産など、相続財産の一部に限っては課税対象にはなりません。

課税対象になる「みなし相続財産」とは?

課税対象になるのは、存命中に所有していた財産だけではありません。被相続人の死亡後に発生する生命保険金や死亡退職金などは相続財産と同等に経済的な価値があり、これらは「みなし相続財産」として課税対象となっています。

保険に関するもの

生命保険文化センターによると、国内では男女とも約8割の人が生命保険に加入していて、死亡保険金は多くの方の相続に関係します。また、損害保険は「車の修理」のイメージが強いですが、単独事故でドライバーが死亡した際に保険金が支払われる場合もあります。

生命保険金・損害保険金

亡くなった人自身が保険料の全部または一部を支払っていた生命保険・損害保険の死亡保険金は、相続税の課税対象となります。ただし法定相続人の数に応じて非課税枠が設けられていて、それを超える部分に対して課税されます。

生命保険契約に関する権利

保険では、保険料を支払う人と契約者が異なる場合もあります。妻名義の保険の保険料を夫の収入から支払っている場合などです。このとき仮に夫が死亡すれば、保険契約の権利は夫から妻に渡ります。この権利の移譲は相続によるものと扱われ、課税対象となるのです。

死亡退職金や定期金に関する権利

一家の大黒柱が亡くなった時などは、死亡退職金や定期金は残された家族の人生にとって大きな支えとなるでしょう。しかし、これらの財産も「みなし相続財産」の一部で、相続税がかかります。

死亡退職金

退職金が出る会社では、従業員が死亡によって退職した際、遺族に対して退職金が支給されます。金銭だけでなく、現物で支給された場合も「死亡退職金」として扱われます。被相続人が亡くなってから3年以内に支給が確定したものは課税対象です。

定期金に関する権利

「定期金」は聞きなれない言葉ですが、個人年金保険や収入保障保険の保険金など定期的に支給されるものを指します。これも、生命保険契約に関する権利の項目で説明したのと同じ要領で、保険料の支払い人から契約人に権利が渡ると相続税の課税対象となります。なお、国民年金の遺族基礎年金や厚生年金の遺族厚生年金は相続税の課税対象ではありません。

みなし相続財産になる財産一覧

被相続人(亡くなった人)が所有していた財産は、原則としてほとんどが課税対象になると考えてください。また、節税のために生前贈与を行った財産も、条件によっては相続財産に取り込まれ課税されます。

本来の相続財産

被相続人が亡くなった時点で所有している財産を「本来の相続財産」と呼びます。一般的に相続財産と聞いてまず思い浮かぶ、預貯金や不動産などがこれにあたります。また、被相続人が事業や農業を営んでいた場合は、仕事の道具・商品・金銭・権利なども相続されます。

一般的な財産

一般的な家庭では以下のような財産が相続税の課税対象となります。

相続税の課税対象となる財産
金融資産 現金・預貯金・有価証券・公社債など
不動産(土地) 宅地・田畑・山林・原野・牧場・借地権・地上権・貸借権など
不動産(家屋) 家屋・倉庫・駐車場・マンションなどの物件
動産 家具・貴金属・宝石・書画骨とう品・自動車など
各種権利 著作権・特許権・商標権・電話加入権・ゴルフ会員権など

事業・農業を営む人が持つ財産

事業・農業を営む人が亡くなった場合は、次のような財産も相続され課税対象となります。

事業・農業を営む人が亡くなった場合の課税対象となる財産
減価償却資産 機械器具・農機具・果樹・農業用の牛馬、営業権など
棚卸資産 商品・製品・原材料・農作物など
その他 売掛金・受取手形など

一部の贈与財産

相続税対策として最も有効でポピュラーな方法は生前贈与です。しかし「相続時精算課税制度」を利用している場合や、贈与の時期と被相続人の死亡のタイミングによっては、贈与財産も相続税の課税対象となることがあります。

相続時精算課税制度に係る贈与財産

「相続時精算課税制度」は贈与と相続をセットで扱い、贈与を推奨する制度です。贈与時にかかる贈与税は、贈与額2500万円までは非課税、それを超えても20%に軽減され、受贈者は相続税の「前払い」として収めます。その後、実際に相続が発生した時は、すでに贈与された財産も「相続財産」として課税対象に含めて相続税が計算されます。その分、相続税は前払いした額が控除される仕組みになっています。

これに対し、基礎控除額110万円の暦年贈与を利用した場合は、贈与した分は相続財産に含まれず、課税対象にはなりません。

相続開始前3年以内の贈与財産

相続開始、つまり被相続人が亡くなった日の前の3年以内に贈与された財産は、相続財産に組み込まれます。暦年贈与の基礎控除額(110万円)以下で申告しなかったものも、相続税の課税対象です。

課税対象にならない「非課税財産」とは

ここまで、課税対象になるものばかり見てきましたが、相続財産のなかには課税対象にならない「非課税財産」もあります。税が課せられないのは、財産の性質や公益性などが重視されているからです。

これだけは知っておきたい非課税財産

多くの人に関係がある非課税財産は、墓地・仏壇など日常礼拝の対象としているものや、保険金・死亡退職金のうちの一定額です。早く知っていればお得な相続対策にもつながります。

墓地・仏壇など

墓地・墓石、仏壇・仏具、神棚などは相続税がかりません。これをうまく利用すれば節税対策になります。被相続人が存命中に墓地・仏壇を買っていれば、課税対象となる現金や預貯金を減らせて、さらに墓地・仏壇そのものは非課税になるというわけです。都市部のお墓は永代使用量だけでも100万円を超えることもあるので、有効な節税対策です。

保険金・死亡退職金の一定額

生命保険・損害保険の死亡保険金や死亡退職金は「みなし相続財産」だと述べましたが、いずれも法定相続人の数に応じて非課税枠が設けられています。非課税の限度額は<500万円×法定相続人の数>で算出します。ただし、非課税金額が控除されるのは相続人だけです。例えば、相続人ではない孫が受け取った保険金には控除が適用されず、全額に課税されます。また、死亡保険金は相続放棄した人も受け取れますが、控除は不可能です。

公益事業や寄付に関する財産

相続財産が公共のために役立てられる場合も、非課税財産となります。具体的には公共事業用財産、国・地方自治体へ寄付した財産などです。いずれも期限までに財産を支出・寄付している必要があります。

公益事業用財産

公共事業用財産とは、宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う人が相続・遺贈(遺書を書き遺言で相続財産を与えること)で取得した財産で、その公益事業に確実に使われるものを指します。この財産には相続税がかかりません。しかし取得から2年以上経っても公益事業に使われていなければ課税対象となります。

国・地方自治体へ寄付した財産など

相続・遺贈で取得した財産を国・地方公共団体・特定公益法人(日本赤十字社、日本ユニセフ協会など)に寄附した場合、相続税は非課税となります。また、特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合も同様です。いずれも相続税の申告期限までに行うという条件付きです。

財産が相続税の課税対象となるかどうかは、存命中に行う節税対策にも関係してきます。相続問題は、平穏だった家族にある日突然降りかかります。早めに取り掛かるのが吉です。何から手をつけていいかわからない方は、遺産相続に強い弁護士に相談してみてください。

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